大判例

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広島高等裁判所岡山支部 昭和29年(う)452号 判決

所論の要旨は本件被告人の窃盗の所為は常習性あるものと認めて常習累犯窃盗として起訴したのにも拘らず、原審は之を誤認して単純窃盗と設定処断したことは、明かに判決に影響を及ぼす事実誤認の違法を犯したものであるというのである。そこで訴訟記録を取調べるに、被告人には所論のような三回に亘る前科があつて外形上盗犯等の防止及処分に関する法律第三条に規定する要件を具備しているものであることは所論のとおりである。

然しながら右に規定する常習性の認定は同条所定の要件を具備している場合に於ては常に必ず常習性の認定をなさねばならないものではなくして、たとえ同条所定の要件に該当する窃盗の罪を重ねているとしても、窃盗をなす習癖の発現したものと認めることが出来ない場合には、常習性の認定はすることが出来ず、従つて常習累犯窃盗罪は構成しないものといわねばならない。

すると被告人は、はたして窃盗の常習性を有するものであるかどうかについて観察するに、被告人は早々両親に死別し兄弟もなければ妻子もない全くの孤独であるというのである。そして大正五年生れであつて、昭和二十五年十二月第一回の処罰を受けるに至る三十数年間に於て生活のため諸所を流浪し、数奇な運命の下におかれたものと認められるに拘らず、窃盗の罪を犯したと認むべき証明は記録上見当らない。

又被告人の窃盗の前科について見ても、第一回は昭和二十五年十一月二十日懲役十月三年間執行猶予、(伹後執行猶予は取消されている)第二回目は昭和二十六年三月三十日懲役十月に、第三回目は昭和二十七年十二月四日懲役一年六月に処せられるという僅々二年間の短期内に三回処罰されたものである。

そして被告人が右に於て窃取した物件は最初は柿を、第二次には米を、最後には自転車一台であつて、いずれも生活のためあちこち流浪しているうち食物に窮した上の所為であることが窺われる。本件の犯行も亦此の類いを出でない。之等の状況を見ると、被告人が突如として昭和二十五年以来窃盗の罪を重ねるに至つたことは、被告人の境遇上の事情に負うところが多く、いまだ被告人の窃盗の習癖の発現したものとは到底認めることは出来ない。

従つて原審が被告人の窃盗の常習性を否定し、単純窃盗と認定したのは正当であつて、原判決には所論のような事実誤認もなければ更に判決に影響を及ぼす虞のある法令違反も存しない。論旨は理由がない。

(裁判長判事 宮本誉志男 判事 有地平三 判事 浅野猛人)

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